2007年 05月 07日
神戸大MBAを修了して早1年が過ぎた。そろそろMBAを客観的に見られる時期になってきたので、一度このテーマで記事を書いておかねばと思っていた矢先、友人がミンツバーグ著「MBAが会社を滅ぼす」を貸してくれた。ミンツバーグはカナダマギル大のMBA教授であり、組織行動学の権威であるだけに、彼によるMBA批判は説得力があるものであった。 この本によると、MBAが間違った時期に間違った教育をおこない、マネジメント育成どころかそれを阻んでいるとの主張。MBAではマネジメントの経験も無い若手が、経営管理手法とさまざまな業種のケーススタディーを通して経営者としてのインサイトを叩き込まれる。それを終えた若者は自信満々で自ら経営のプロと勘違いし、ろくにラインマネジメントも経験せず経営者になりあがり、派手なディールや抜本的な改革を打ち上げて失敗する、さらには利益至上主義の果てに不祥事を働くというくだり。米国ではあながち嘘でない事実のようだ。米国では、MBAがベテラン社員を一気に追い抜く特急切符としての市民権を得ている、ということもその様な構図を生む原因となっている。 コンサルタント会社や投資銀行で働くなら良いかもしれないが、いくら優秀で分析力に優れ、弁舌能力に長けてている人材であろうと、事業会社、特に製造業ではラインのマネジメント(いわゆる現場)を知らない人間が経営を行うことについて弊害が大きい。MBAで得られるKnow-Howは、会社の大きな枠組みを捉えることには有効であるものの、オペレーションを支える細部の仕組み、その会社の持つ有形、無形資産の価値やその最適化の手段、潜在的なリスクの所在を洞察するためには「現場」を知っていないと難しい。また、現場では面倒で簡単でない問題が山積している。MBAではそのような問題に対する処方箋を学ぶことはできない。(ミンツバーグはMBA出身者がこのような面倒な事項に手を突っ込みたがらないことも問題と指摘する) ここで改めて、「MBAは役に立つか?」と問うてみると、私は経営人材の育成という意味ではやはり「MBAは有効である」と思っている。会社の付加価値を高めるための学問的な洞察は、私にとって多くの気づきを与えてくれたことは事実である。ただし、上記のようなラインマネジメントへの造詣をある程度備えた「大人」でないとそのような「気づき」が少なく、手法のみを学んでしまうという弊害もあろう。すなわち、ラインマネジメントの経験知と経営管理手法の両面をうまくバランスさせることができて初めてMBAの価値が高まる。 このバランス感覚が大切で、逆にラインのマネジメントしか知らない経営者の問題点として、往々にして事業への思い入れが強すぎ、ステークホルダーへの配慮に欠け、事業全体の枠組みを変えるという発想になりにくいことがあげられる。これは昨今の企業買収における被買収企業経営者の行動に現れていることは前述した。 ミンツバーグの批判に対しては、MBAで学ぶ手法の内容そのものよりも、経営者となるべき人間の倫理や信念を問うべきではないかと思えた。すなわち、経営者になる人間が、どういう使命を背負っているのか、その信念はどうあるべきかということ。そういうことは教育で学べることではないし、そういうことが曲がっている人は、MBAに行って無くても間違ったことをするだろう。(ただ、そいう人間をも格上げしてしまうMBAは問題だが) 先日、入社2年目の若手社員から「会社のMBA留学の応募をしたい」と相談されたのだが、正直背中を押してよいものか戸惑ってしまった。「もう少しラインを経験してから」というのが本音であったが、「チャンスであれば逃がさず挑戦すべき」と背中を押してやった。 MBAは勉強をするだけが価値ではない。そこで、異なるバックグラウンドを持ったクラスメイトとともに、経営について真剣に考えることを通して上記の信念も含め、自ら気づきを得るための「場」を提供してくれる。また、私はMBAの研究活動を通して出会った経営者からも多くの示唆を得ることができた。そのような「きっかけ」もたくさんある。MBAは工学や経済学などの完成した学問ではないことからも、それを斟酌する側の理解の仕方もさまざま。MBA通して学ぶことは人それぞれ大きく異なるだろう。 キャリアの梯子の一つとしてMBAを捉えた時に、それを生かすも殺すも自分次第ということ。 今日はこれくらいで・・。
by miyakeseiya
| 2007-05-07 22:14
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